ささやかな工夫で集中力や生産性、エネルギーを高め、楽しみのある毎日を
在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせてハイブリッド型勤務の普及が進んでいます。2つの環境で並行して働くことで、ストレスが増したと感じる方もいらっしゃるかもしれません。あなたは、「毎日の就業時間があと2時間長ければ…」と考えてしまったことはありませんか。
2つの異なる環境で仕事をこなしながら、自分だけのために何かをするなど、とても出来そうにないように思われます。両方を達成しようとすると、心身ともに消耗してしまうからです。さらにあなたは心の中で、「長時間仕事をしている割には、自分の生産性が上がらない」と感じてはいませんか。「私はいつもするべきことを先延ばしにしている」と自分を責めてしまうこともあるでしょう。こうした心の動きは、あなたの気持ちを疲弊させてしまうだけでなく、モチベーションをも低下させてしまいます。
生産性(つまり「ピークフロー状態にある時間」)を維持するためには、以下を含め、多くの点に留意しなければならないことが分かります。
- エネルギーの使い方を管理する
- 認知活動や身体的活動、感覚活動のためのエネルギーを高める
- 自分自身のことに集中し、気持ちを切り替える
- 反復したワークフローの生産性を改善するために工夫のためのハック
適切な食事でエネルギーの改善を
2019年、米国では1億人以上(つまり、米国人の3人に1人)が、「うつ病」を問題に挙げています。うつ病を発症する原因はさまざまですが、これに罹患すると、集中力が低下するとともにエネルギーが消耗され、日常生活を楽しむことが出来なくなってきます。身体的な要因から発症することもあるので、以下の点には十分気をつけましょう。
- ビタミンD不足
- 葉酸(ビタミンB群の一つ)不足
- ビタミンB12不足
- グルテン不耐症
- ホルモンバランスの乱れ
- 加工オイルに含まれるオメガ6系脂肪
特に糖分とデンプンが多いものや脂肪が少ないものは、体にとって非常に有害です。飽和脂肪酸は、「必須脂肪酸」と呼ばれていますが、これは脳の働きに飽和脂肪酸が深く関係しているからです。
最適な栄養状態を維持するためには、自然食品や植物性食品、善玉脂肪、オメガ3脂肪(アボカド、ナッツ、種子類)、グラスフェッド(牧草飼育された)動物によるたんぱく質や天然たんぱく質、良質のオイル(ココナツオイルなど)を食事の中で摂取することが大切です。
また、私たちの体の97%は、水分で構成されています。ビーチで遊ぶ子供や、水に飛び込んだり水遊びをしたりする人たちを見たりすると、人間は水に惹かれる生き物なのかもしれない、と感じます。
私たちにとって、水は欠かすことが出来ない成分ですが、十分な量を摂取している人は少数で、脱水症状を引き起こす人たちもいます。水の摂取が不十分だと、のどの渇きを感じる前に、無気力になったり集中力が続かなかったり、ストレスに対する我慢が利かなくなったりしてきます。水以外のものが飲みたくなったら、ハーブティーをお勧めします。
水は、1日平均で8杯から10杯は摂取するように心がけましょう。まずは、毎日飲むお茶やコーヒーなどの嗜好飲料に替えて、水を飲む習慣を持てば良いと思います。また、ランチタイム後にカフェインを摂取すると、睡眠の妨げになる可能性がありますので注意して下さい。ダイエット用飲料は、体が吸収しにくい添加物を含んでいることがありますので、避けた方が良いでしょう。
なお、食事の30分前に水を多めに飲むことで、食欲を抑えることが出来ます。これは空腹感とのどの渇きがよく似ているためです。しかし、食事と水を一緒に摂取することは控えましょう。水は、口の中にある消化酵素を希釈し、消化を遅らせてしまうことがあるためです。
エクササイズで集中力を高める
私たちの身体は活動することを前提に作られています。しかし、現代人の多くは十分に体を動かしているとは言えません。1時間ごとにストレッチや散歩などで体を動かし、毎日エクササイズを行う習慣を持ちましょう。頭がぼんやりしてきたときや、ネガティブな思考が浮かんできたときは、一人になれる場所を探して数分間ストレッチをしたり、わざとあくびをしたりして、体の中に酸素を取り入れてみて下さい。
エクササイズの習慣化に失敗する理由として頻繁に挙げられるのが、モチベーション不足です。これについては、以下の点を参考にして下さい。
- 外見を磨きたい、気分良く過ごしたい、など、あなたが自分のためにエクササイズを行う理由をすべて書き出しましょう。
- では、エクササイズをしなかった場合、どんな結果が待っていると思われますか?これをすべて書き出して下さい。
- 外見が向上し健康になると、あなたはどんな気分になりますか。考えてみましょう。
- では、エクササイズをせずに過ごした結果、あなたはどんな気分になるでしょうか。書き出して考えてみて下さい。
次に、エクササイズがどうすれば楽しくなるかを考えてみましょう。
私自身は、80年代の音楽を高い音量で流しながらミニトランポリンを楽しんだり、お気に入りのインストラクターのオンラインレッスンに参加したりしています。大切なのは、エクササイズの進捗具合を、後で確認出来るようにしておくことです。その1日の中で、自分がどの程度の活力(エネルギー)状態でエクササイズを行ったか(1-10段階)、どのような変化があったのかを記録しておくことは、特に重要です。
十分な睡眠でエネルギーを取り戻す
睡眠には、脳をリラックスさせる効果があります。このため、十分な睡眠を取ることで一日を快適に過ごすことが出来るようになります。つまり、ストレスが低下し、学習効率も上がり、課題に対する答えも見つけやすくなります。睡眠中、私たちの体は平穏でリラックスした状態にあります。心拍数や体温も下がり、警戒心や緊張から解放された状態です。
一方で睡眠が不足すると、体や心の健康に影響するだけではありません。ストレスや不安感の高まり、集中力や気分、生産性の低下を引き起こすこともあるのです。
良質な睡眠をとるためにも、以下の点を実践してみましょう。
- 部屋を眠りやすい状態に調節する(暗く、涼しく、静かに)
- デジタル機器などは出来る限り周りに置かない
- ベッドは清潔で、心地よく眠れるものを用意する
- 眠るときの習慣に合わせて、気持ちを落ち着ける練習をしましょう。毎日ほぼ同じ時間に就寝・起床し、テレビや食事、仕事から離れることが大切です。
- 就寝の数時間前になったら、アルコールやカフェイン、たばこ、食事などは控え、体を落ち着かせましょう。また、激しい運動も禁物です。眠る前に、気になることをすべて書き留めてリスト化し、悩みから解放される(マインドデトックス)ようにするのもお勧めです。
- 翌日に長時間の大切なミーティングを控えているとします。そんな時、もし、前日の午前2時に気がかりなことを思い出して目を覚ましたら、すぐにそれを書き留めておき、次のように自己暗示をかけましょう。「今メモしたお陰で、12時間後の午後2時に開催されるミーティングでは、確りと目が覚めた状態で、上手く対応することが出来るだろう」。
これらが済んだら、ベッドのそばにグラス一杯の水を用意します。朝目覚めたら、その水で水分補給をしましょう。また、目覚ましには心地良いアラーム音や音楽を使用して下さい。この他にも、瞑想をしたり、感謝すべきことを10個見つけるなど、気持ちよく朝を迎える習慣を実効しましょう。
ここまでの説明はご理解いただけましたでしょうか。
仕事の集中力と生産性の向上を
さて、あなたは十分な水分と適切な食事、良質な睡眠を取った後に仕事を開始しました。しかし、忙しくなってくると、さらにさまざまな事が発生します。例えば、ある仕事に手を付けようとした瞬間に電話に呼び出され、他の仕事に時間を取られた結果、後になってからその仕事を完了していなかったことに気付いた、といった経験はありませんか?
ナレッジワーカーは、多数のプロジェクトを一手に引き受けながら、さらに多くの仕事を絶えずこなしていかなければなりません。優先順位をつけて効率的に捌いていくことが出来なければ、これらの仕事は、あなたの心にずっと居座り続け、頭の中からいつまでも離れなくなるでしょう。
この状態ではいくら生産性改善の努力をしても、現在の仕事に十分集中することは出来ません。四苦八苦して切り抜けることは出来たとしても、一日の終わりにはスイッチが切れて何も考えられなくなるほどの疲れに見舞われるかもしれません。
心理学や哲学にも造詣が深いマット・セレナ氏によると、完了出来なかった仕事が頭の中をぐるぐると回っている状況は、「オープンループ」の状態です。つまり、あなたの脳は、望むと望まざるとに関わらず、未完成のままの仕事のことを常に思い出すように機能しているのです。「ペットのネコについた虫をを取ってあげなきゃ」と考えていたら、とても仕事に集中することなど出来ません。
「ツァイガルニク効果」という言葉をご存じでしょうか。これは、人間が、中断されたり未完了のままの仕事を無意識に気にしてしまう傾向があることを示したものです。これはまさに、「オープンループ」の結果生じたもので、この状態に陥ると未解決の問題に囚われ、効果的に集中することが出来なくなります。さらにこうした無意味な思考は、夜になってもあなたの頭の中に溢れ続け、帰宅しても気持ちの切り替えが出来なくなります。その結果、眠れなくなったり、気持ちをすり減らしたり疲労感を感じるようになります。
この状態から抜け出すためには、このループを終わらせなければなりません。何の仕事を、いつ実行すべきかを整理し、こうした認知・心理上の負担を軽減していきましょう。以下の方法を参考にしてみて下さい。
- シンプルな紙片に、片付けなければならない仕事を全て書き出します
- その仕事をすべて赤や黄色、緑(RAGシステム)のマーカーを使って色分けします。赤=緊急、黄色=重要だが緊急ではない、緑=気に留めておく必要はあるがすぐに対処する必要はない、などと分類すれば良いでしょう。
- アイゼンハワー・マトリックス(緊急度重要度マトリックス)など、分かりやすい方法で優先順位を整理していきましょう。
これが終了したら、以下を参考に「ループを終わらせるためのチェックリスト」を作成し、毎週確認して仕事の状況を分類して下さい。
- 必要がなくなったので、削除可能
- 現在は対応不要だが、後で何らかの対処が必要になる可能性あり。「回答待ち」のファイルを作成して、毎週チェック。
- 自分が引き受けることになるかもしれないプロジェクトの予算など、後日必要になるかもしれない情報。レファレンス/ライブラリーファイルに、正しく保存しておくこと。
- 対応しなければならない仕事や、その準備に必要な情報がある場合は、会社のシステムを活用して、皆で共有できるプロジェクトボードを立ち上げること。
- プロジェクトリスト(「XXXのピッチのための文書を完成させること」、「eラーニングを終了すること」、「週末の小旅行のための支払いを済ませる」など)の作成。
- 緊急性がない予定であれば、カレンダーに時間と日にちを記入しておくこと。
上記の他、ダウンロードしたまま、「積読」状態の情報や、未だに鑑賞できないままの動画はありませんか。これらについても消去するか、時間を作って確認したり鑑賞したりしておきましょう。例えば、「クイーンズ・ギャンビット」というドラマがありますが、この第3話は、メンタルヘルスに良い効果を期待できます!大切な夢や計画については、「現在は決めなくても良い」、「将来決める」というリストを作っておくのもお勧めです。高い集中力で精力的に活動しているうちに、これらの夢や計画実現のために実行すべき行動が、リストのトップに上ってくるかもしれません。
著者
ロザリン・パルマー
トランスフォーメーショナル・コーチ、セラピスト